それぞれの復興11年、酒めぐり編|旅人:井門宗之

2022-03-18

永尾「今回の旅のテーマをどうしようか考えているんだけど、
沿岸ではそれまでの蔵元もそうなんだけど新しく酒造りを始めている方も多くてさ。
復興の酒めぐりを一つのテーマに…」

 

井門「やりましょう(食い気味)

 

震災から11年の東北をめぐる旅。
何をテーマに取材をしようかいつも悩ましいのですが、
東北を愛し愛される男・永尾Dの素敵な提案で今回は即決でした(笑)
確かに東北には美味しいお酒が沢山ありますし、
何よりそのお酒に携わる方々が素敵な方ばかりという印象。
果たして今回はどんな人のどんな酒に出会えるのか、旅が始まる前からワクワクなのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永尾「しかし広田湾が綺麗だね。」

 

井門「一本松はあそこにあるんですね。」

 

吉武「前に来た時は工事中の中で一本松まで迷路みたいだったもんね。」

 

僕らが最初に訪れたのは陸前高田市です。
昨年も八木澤商店の河野さんを訪ねてお邪魔した町ですが、
とは言えこちらも震災以降何度となくお邪魔し続けた町。
かつての町の姿からは想像もつかないような整えられた町の姿が拡がります。
この陸前高田でお酒の海中熟成をやられている方がいらっしゃるとか。

 

井門「海中熟成ってあれでしょ、よく外国の沈没した旅客船の中にあったワインが、
長いあいだ海の中にあって引き上げて飲んでみたら旨かった…みたいな?」

 

永尾「不思議と海の中に入れておくと何かの作用で酒が旨くなるらしいんだよね。」

 

井門「いったいどんな味になるんだろう…。」

 

お話しはぶらり気仙代表の鍛治川直広さんです。

 

井門「どんなお酒を海の中に入れているんですか?」

 

鍛治川「陸前高田は酒蔵やワイナリーがありますので地元のお酒です。
いくつか持ってきてますので…こちらです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

見せて頂いたのはワインのボトルと日本酒のボトル。
その表面にはびっしりとフジツボが付いていて、確かに海の中にあったことを物語っている。
ワインのコルク部分にはロウで栓がされており、海に入れても問題ない仕様だ。

 

井門「これで大体どのくらい海の中に入れてあるんですか?」

 

鍛治川「そうですね…10か月程度ですね。」

 

井門「肝心のお味なんですが、やはり変わるんですか?」

 

鍛治川「えぇ、味にまろやかさが出るというか旨味が増します。
実際に調査をして裏付けもありますので。」

 

面白い…海の中に入れて波にさらす事で瓶の中の酒に何かしらの影響を及ぼし、
さらに美味しさまで増していくなんて…僕も海中熟成して欲しい…。
陸前高田には僕らもかつてお世話になった酔仙酒造さんがあって、
その酔仙さんのお酒を海中熟成させているんだとか。

 

井門「これ実際に酔仙酒造の方はなんておっしゃったんですか??」

 

鍛治川「驚いてました(笑)火入れをしているとそこまで変化しない筈なのに…と。」

 

井門「これは是非…飲んでみたいです!」

 

鍛治川「勿論です、では海中熟成している物と、していない物を飲み比べてみてください。」

 

永尾「じゃあ僕も…ホラ、井門くんマイ御猪口出して。」

 

井門「今回は会津本郷焼、樹ノ音工房さんの御猪口を持ってきましたから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

井門「!!!!!!!
あぁ、これは違う!!確かに味が丸くなってますね!!!」

 

鍛治川「海の中に入れるとお酒が美味しくなるって、漁師さんは知っていたんです。
でもその理由がわからない。きっと海の神様の仕業なんでしょうね(笑)」

 

地元の米と地元の水で出来た日本酒が、
海の神様の力でその味に変化が出て来る。なんとも面白いじゃないですか!
鍛治川さんは仰います、これを体験型の観光コンテンツにしたいと。
お酒を沈めて、数か月後にまた陸前高田に来て、三陸の美味しい物とお酒を楽しんでもらう。
陸前高田には魅力がたっぷりなので、その一つとして海中熟成も楽しんで欲しいと。

 

井門「ちなみに海中熟成はお酒だけじゃないんですよね??」

 

鍛治川「はい、実はコーヒー豆もやってます(笑)
コーヒーも味がまろやかになるんですが、こっちのメカニズムは分かりません(笑)」

 

 

 

 

 

 

 

 

よく『海の恵み』なんて言いますが、こんな恵みもあるんですね。
気になった方も沢山いらっしゃると思いますが、
陸前高田の飲食店か「ぶらり気仙」のHPから購入可能ですので、是非!

 

続いて我々が向かったのは陸前高田から少し南下して、気仙沼です。
到着したのはもう暗くなりかけだったのですが、内湾のイルミネーションが綺麗で。
内湾地区の工事が終わってからというもの、永尾Dがしきりに気仙沼をこう呼ぶんです。

 

――口説ける町――

 

いや、分かる。分かりますよ。
前に小野寺さんと内湾店の前で話していた時に、
大きな犬を連れた外国人女性がここを散歩していて。
ヤッチさんが言ってたもんなぁ、
あの女性の旦那さんがポートランドから移住してきたんです、って。
なんでもクラフトビールを気仙沼で作りたいって醸造所を始めるんだって。
クラフトビールの醸造所が気仙沼に…そんな場所が出来たら更に口説ける町になっちゃう。
…って思っていたら出来たんです!(笑)
実は去年気仙沼に来た時にもヤッチさんとビールで乾杯したのですが、
内湾地区の新たなオシャレスポットとして完成したのが…
BLACK TIDE BREWING

 

 

 

 

 

 

 

 

営業部長でブリュワーの丹治和也さんに飲タビュー、いやインタビューです。

 

 

 

 

 

 

 

 

井門「いや、本当にお洒落ですよね。」

 

丹治「有り難うございます(笑)」

 

井門「そもそもここでクラフトビールの醸造所を始めたのはジェームスさんが?」

 

ジェームスさんというのはこちらのヘッドブリュワー、ジェームス・ワトニーさん。
前述のポートランドから移住された方であります。
そのジェームスさんが気仙沼の土地に惚れ込んで仲間と始めたのがこちら。

 

丹治「最初のメンバーは7名で、うち5名は他県、2名は地元でした。」

 

井門「丹治さんは?」

 

丹治「僕も地元が新潟県なので他県からになります。」

 

こうして奇跡的に集まったメンバーで出来たのがブラックタイド。
(あっ、馬の名前の話するの忘れてた…それはおいといて。)
でもこうして気仙沼にクラフトビールの醸造所って改めて凄い。

 

丹治「全国各地、色んなクラフトビールの醸造所がありますが、
隣が魚の市場ってのはここしかないでしょうね(笑)」

 

お話しを伺った時間は市場も閉めていたのだけど、
昼間にお伺いした時は素敵な光景が広がっておりました。
だって新鮮な魚を眺めつつ、美味しそうなお惣菜を買いつつ、
喉が渇いたら美味しいクラフトビールがすぐ隣で飲めるんですもの(笑)
そして楽しいのは「ただクラフトビールが飲める」だけだからじゃない。

 

永尾「前に来た時に飲んだグリーンの缶だったかなぁ、
今度来た時にまた飲もう!って思ったらもう無くなっちゃってたんだよ。」

 

丹治「すみません…、常においてある銘柄っていうのが無いんです。
2020年からスタートしていますが、既に60種類以上作ってますかね…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

井門「それだと出会いの面白さもありますよね。
一期一会というか。せっかくなので僕も何か頂いていきます!」

 

丹治「井門さんはどんな味がお好みですか?」

 

井門「そうですねぇ…華やかなのお願いします!」

 

吉武「ぷぷぷっ。」

 

井門「なんだよ、笑うなよ!」

 

吉武「そんな顔して華やかとか…ぷぷぷっ」

 

井門「お前もクラフトビールの新作にしてやろうかっ!!!」

 

吉武「ギャフン!」

 

はい、というミラクル吉武さんとの久々のいちゃつきはさておき。
丹治さんに出して頂いたのがドリフトネットというビール。

 

 

 

 

 

 

 

 

綺麗なうす濁りのクラフトビールは香りが既に華やかで、
グラスを持った瞬間から期待がどんどん高まっていきます。

 

井門「では頂きます。…うわぁ、旨い…。
物凄く華やかな香りですねぇ。おじさん、うっとりしちゃいます。」

 

丹治「(笑)」

 

コロナの影響もあって缶での販売にも力を入れているBLACK TIDEさん。
だからといって攻めの姿勢は忘れてはいません。

 

丹治「今はコロナで大変な時期ではありますが、
敢えてこういう時に県外の醸造所さんとコラボしてみたいと思っています。」

 

僕らがインタビューしている間もスタッフの方が何やら試作品の試飲をされていて、
きっとまた新しいテイストのビールが次々と生み出されていくのだろう。
何よりスタッフの皆さんの仲が良さそうで、その明るさもとても素敵なのです。
BLACK TIDE BREWINGのクラフトビール。
首都圏への出荷が多いというお話しでしたが、
地元気仙沼や仙台でも手に入るとのことでしたので、見かけたら即ゲットです!

 

 

 

 

 

 

 

 

吉武「次に向かうのはワイナリーでゲスよ。
ワイン通の井門の腕の見せ所でゲスなぁ。へへへ。」

 

井門「なんだよ!嫌な言い方するんじゃないよ!
僕はワイン通じゃない、酒バカなんだよ!!」

 

という酒バカ御一行様が続いて向かったのは福島県南相馬市です。
こちらの小高地区には独学でワイン造りに挑戦した方がいらっしゃいました。


コヤギファームは震災前、酪農をやられていました。
それが原発事故の影響で方向転換を余儀なくされたのです。
こちらの代表、三本松貴志さんにお話しをお伺いしました。

 

井門「ワイン造りはいつから始められたんですか?」

 

三本松「震災後に福島のいくつかのワイナリーでお手伝いをして、
全くの未経験だったんですけど2019年に550本定植して。そこから始めました。」

 

井門「それまで酪農をやられていたのに、なぜワインだったんですか?」

 

三本松「はい、原発事故の影響で酪農が出来なくなって。
酪農やっていた時はなかなか休みが取れなかったんですけど、
ある時お休みを利用して山形県の高畠ワイナリーに立ち寄ったんです。
お邪魔した時はもう間もなく営業時間も終了というところだったんですが、
それでも沢山の人で賑わっていたんですよね。
それを見た時に小高でワイナリーをやれば人が戻ってくるんじゃないか、
賑わいが作れるんじゃないかと思ったんですよね。それで大方向転換です(笑)」

 

方向転換って、これは並大抵のことではない筈です。
それを明るくお話ししてくださる三本松さん。
2019年からブドウの樹を植えて去年は5400本の樹を植えたとか。
そして待望のワインが去年の8月に完成したのであります。

 

井門「僕らの目の前にも2本そのワインがありますけど、
こちらがカベルネフラン、こちらはマスカットベリーAですね。
またエチケットが面白い!コヤギのシルエットなんですが、迷彩柄が!」

 

三本松「はい、目立つようにと思ったのと、私がサバイバルゲームが好きなもので(笑)」

 

生産者の方の目の前で頂くのはとても緊張するのですが、
せっかくなので三本松さんが丹精込めて作り上げたワインを頂きました。
どちらもロゼワインということで飲み口は優しく、
口に含むと深い味わいが拡がっていきます。なんとも和風のワイン。

 

井門「これは和食とか煮物にも合いそうなワインですね!」

 

三本松「有り難うございます。我が家でも色々と試したんですが、
一番合ったのが餃子でした(笑)」

 

井門「なるほど、餃子ですか!」

 

三本松「次はバニラアイスですかね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

三本松さんは仰います。
ワインの出来には満足しきれていない…と。
自分たちが満足してしまったら終わってしまう。
お客さんに美味しいワインを飲んでもらうために試行錯誤していく、と。

 

三本松「いまはブドウをここで作ってますが、
ワインは岐阜県の恵那にあるワイナリーで醸造しています。
でもいつかワインの醸造もここでやろうと思っているんですよ。」

 

井門「そうすれば完全にテロワールですもんね。」

 

三本松「そうですね、色んなことをやっていきたいです。」

 

インタビューの終わりにブドウ畑を見せて頂いたのだけど、
かつて酪農をし、牛の放牧を行っていたからなのか、
ここの土で育ったブドウは生育が物凄く良いのだそうな。
ここの土が良い秘密は、長年にわたり愛してきた牛の恩返しなのかもしれないなぁ。
コヤギファームのHPでワインは購入出来ますので、皆さんも是非!
そして挑戦を続ける三本松さん、心から応援しています!

 

 

 

 

 

 

 

 

永尾「井門君、福島に来たら浪江のあの人に会わないとね。」

 

井門「もしかして…?」

 

永尾「山形でもお世話になった鈴木さんだよ。」

 

鈴木酒造店長井蔵、かつて山形県の取材で訪れた酒蔵であります。
ここの御主人は鈴木大介さんと仰って、実は福島の方です。
故郷浪江町で江戸時代から続く酒蔵を守っていた鈴木さん。
ところが震災による津波の被害を受け酒蔵は流され、
原発事故の影響で町を離れなくてはいけない事態になってしまいました。

 

鈴木「たまたま山形県の長井で廃業予定の酒蔵があることを知って、
そこで酒造りを続けることが出来たんです。」

 

井門「鈴木さん~!!お会いしたかったです!!」

 

鈴木「いやぁ、お会い出来て嬉しいです(笑)」

 

井門「長井の蔵にお邪魔した時に、
実は浪江で復活出来るかもしれないって仰ってましたもんね。」

 

鈴木「ようやく故郷に戻って酒造りを再開することが出来ました。」

 

鈴木さんが「ようやく」と仰いましたが、それが「10年」です。
浪江の避難指示が2017年に一部で解除されたのをきっかけに、
浪江町の道の駅の建設計画が持ち上がりました。
鈴木さんはその中で地場産品を売る事業者として入居を希望し、
晴れて道の駅の中に鈴木酒造店の新たな酒蔵が完成したのです

 

井門「実はさきほどお店を見てきました!
店舗の中から蔵の一部を観ることが出来るんですね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

その店舗には鈴木さん達が醸した数々の銘酒が並びます。

 

井門「中にあった“故郷ふたつ”って、あのお酒は新しいですよね?」

 

鈴木「私たちは長井で酒造りをしてきて、長井にもとても感謝しています。
ですからあの土地で作った酒とここで作った酒を使って再仕込みをして、
それぞれ“故郷ふたつ 海”と“故郷ふたつ 山”という酒を作りました。」

 

井門「なんて素敵な名前…良い名前ですね…。
僕らも以前長井にお邪魔した時に看板銘柄の“磐城壽”を頂きましたけど、旨かった。
実はさっきお店で生酒を買ってきました(笑)」

 

 

 

 

 

 

 

 

作り手の目の前でお酒を頂くって緊張するんですけど、今回はそういう旅ですし(笑)
でも鈴木さんにとっても磐城壽は特別なお酒なんです。

 

鈴木「震災から絶えず作り続けてきたお酒ですから自分たちにとっても特別です。
この生酒は少し薄く濁ってますよね。」

 

井門「そうなんですよ、少しだけ白く濁っていて、それもなんとも美しくて。」

 

鈴木「酒蔵のあった請戸の今の旬が白魚なんです。
その色を目指して、白濁した色の酒を目指しました。」

 

磐城壽の生酒。火入れをしていない、こちらもまさに旬な酒です。
栓を開けると中の酸の影響で少しだけポンッと音がして。
キリッと冷やした生酒をマイ御猪口に注いで頂きます。

 

 

井門「…………いい酒ですね…(うっとり)」

 

鈴木「ははは(笑)有り難うございます!
僕らは酒を通して地域貢献をしたいと思っています。
この地域でとれる物の品質が良いんですよね。とは言えまだ5%の帰還率しかない。
だからこそ、良い酒を造って貢献出来ないか考えています。」

 

井門「いまようやく故郷で酒造りが出来る様になって、
新しいご自身の城が出来ていかがですか?」

 

鈴木「自分の城…というよりはこの施設が出来上がるにつれて、
“いつ戻るの?”って地元の皆さんに言われてきたんです(笑)
だから自分の城じゃなくて、地域の皆さんと一緒に作り上げた場所だと思っています。」

 

鈴木さんの目指すところはいつだって真っ直ぐで、優しくて。
そんな鈴木さんが醸す酒が美味しくないわけがないのです!
代表銘柄の磐城壽も含めて、鈴木さんのお酒は公式HPでも購入出来ます。
想いのこもった酒を、皆さんも是非!

 

 

 

 

 

 

 

 

お酒には物語があります。
その物語は決して酒蔵にだけではなくて、例えば酒屋さんも然りで。
また、元々酒造りをしていた方にだけではなくて、新たにチャレンジする方も然りで。
お酒はそこに関わった方々の物語も込みで、きっと旨くなるんだと思うのです。

 

今回取材した鍛治川さんの海中熟成のお酒も、
BLACK TIDE BREWINGのクラフトビールも、コヤギファームのワインも、
そして鈴木酒造店の日本酒も、
東北のお酒にはその先に「地域に貢献したい」という想いが込められています。

 

震災から11年が経ち様々な事物が変化してきましたが、
お酒に関わる方々の気持ちはきっとこれからもずっと変わらないと思います。
そしてその想いを地元の景色込みで楽しめば、酒の味も格段に上がるはずです。
いや、格段に上がるのです。

 

状況的にはコロナがまだまだ…といったところですが、
現地に行って応援、の前に買って応援が出来るのが酒の良いところ。
いつか地元の景色込みで飲める日を楽しみに、
東北のお酒をこれからも是非応援し続けてください!

 

今回取材に御協力頂いた全ての皆さん、
また必ずお邪魔します!そして現地でまた旨い酒を楽しませてください!
本当に有り難うございました!